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震災以降、一度も募金をしていない。
直後は世の中の空気にならって募金しなきゃって勢いづいたけれど、いろいろな報道を見聞きしていくうちに、なにか違うと思い始めた。お金出したことで安心して、それで終わりでいいのかと思ったりした。いまだこのことに対しては、もやもやとした気持ちをもったままでいる。 なにか違うと思ったのはたぶん、宮古・気仙沼・石巻といった土地に以前行ったことがあるからだと思う。 宮古で食べた生ウニとか、気仙沼で食べたイクラとか、石巻で食べた海鮮丼とか、こう書くと喰いもんばかりなんだが、そこを走っていた鉄道や接した人たちのことを、あの日まず思った。その後、被害を受けながらも一時期無料で一部区間を運転していた三陸鉄道、あの夜何度も画面に映った火の海の気仙沼、かろうじてなんとか残った石巻の石ノ森漫画館の宇宙船みたいな建物などが、報道で伝わってきたけれど、それらはどこか異次元のことのように思えた。一度、この足で歩いたはずの土地のことなのに、だ。そしてそのまま異次元のこととしてすましてしまうのは、なにか違うと思った。 だから現地に行ってみることにした。震災から7カ月が経って、見聞きする情報は少なくなり、なんとなく当初よりは事態が上向いて、ボランティアでもなく働くでもない、分類からすれば観光客が行っても、大迷惑にはならないんじゃないかと思った。というか、思いたかった。でもそれなりに衝撃を受けるだろうから、行くにあたっては「泣かないこと」を目標とした。たった一度来ただけの観光客がふらふらと再訪して、勝手に、一方的にめそめそしていいわけがない。図々しいというものだ。 結果として目標は達成されたが、それはあまりの光景に己の感情が吹き飛んだからだ。 以前はこうだったのにという懐古や、それに続く絶望や、やり場のない怒りや、そうしたあれやこれやの感情はすべて、現場から去ったのちに襲ってきた。でもまだ涙は出ない。涙が出る段階に至っていない。 行ってよかったとは思う。 ひとつひとつの土地にいたのは、本当に失礼なくらいに短い時間で、何がわかったんだと言われればたぶん全く何もわかっていない。直後ではなく7カ月も後に来て、何を衝撃受けてるんだと言われれば、返す言葉もない。 でも、少なくとも、まるで人ごとではなくなった。 未だ水没したままの更地にしゃがみこんでいた黄色い長靴をはいた女性や、日本酒を売ってくれたお母さんや、そうした人たちのことを、これからは思うことができる。具体的に思い浮かべるものがある。 何をしたらいいのかわからない、という思いはきっと、震災の被害があまりに巨大で想像を超えて茫漠としているからじゃないだろうか。ほんの一部でも、自分の目で見て、耳で聞いて、鼻でかいだにおいは、具体的で記憶に留まる。記憶に留まったからといって、何かできるわけではないが、いやできる人もいるが、自分の体験を基にものを言うことができる。想像だけでものを言うよりは、かなりいい。 わたしは活動的な人間ではないし、雄弁に語ることもできない。せいぜい文章を書くことができるくらいだ。だから書く。今の気持ちを、この先忘れないために、こうして書いておく。忘れないことくらいしか、今の自分にできることはない。 #
by tetsuyome
| 2011-10-15 23:00
| 身辺雑記
「父親としては娘には年をとって欲しくない気がするけど、それがなぜだかは判らない。それにつれて自分の年齢を自覚させられるからか、純粋に娘に若いままでいて欲しいと願っているのか。自分でも不思議な感覚だ。」
という父ヒロミからのハイレベルロマンチストなメールを受け取った。 父の願いもむなしく、確実に時は刻まれ、本日わたくしは四十になった。 近年になく清々しく心躍る気分でいる。 三十代はあまりに放埒だった。 二十代に働いたといえば働いたが、それにしたって弛みすぎている。 これからの十年は、人の暗闇にきちんと目を向けられるようになって、できればそれを文章で書き表したい。沈むでもなく、煽るでもなく。いたって冷静な視点で。熱情を隠しつつも決して忘れず。 たのしー美味しいーしあわせーな文章は、もういいと思うんだ。そういうのは、もっと若い人が書けばいい。 思慮深く慌てない人間になりたい。 でもとりあえずは血圧を下げなくてはならない。 なにはともあれ。 #
by tetsuyome
| 2011-08-24 15:52
| 身辺雑記
四国へ行ってきた。
東京に住んでいると四国ってあまり馴染みがなく、なんかこれといったイメージがないかもしれない。 今年は大河ドラマで坂本龍馬をやっていたり、なんとか芸術祭みたいなのをやっていたりするけど、そういうものに興味があるわけではなく、いつもどおり、ただ鉄道に乗りたいだけである。 四国は思っていたより近い。 東京から新幹線で岡山まで3時間半、瀬戸大橋線に乗り換えて30分ほどで香川県だ。 香川(讃岐)から、各方面に路線が広がっていて、今回の目的は、予讃線(伊予《愛媛》と讃岐をつなぐ)と土讃線(土佐《高知》と讃岐)、そして予土線(伊予と土佐)。予讃線と土讃線は、岡山からの直通の特急が走っていたりして、比較的短時間で回ることができるけど、予土線はいささか隔絶されていて趣深かった。 車両の特長といえば、メインカラーは水色である。 そして、特急、各停に関わらず、アンパンマン列車の頻度が高い。 作者の故郷が高知のためで、1両編成の無骨なディーゼル車の先頭にメロンパンナちゃんのプレートが掲げてあったり、車両まるまるアンパンマンのゆかいな仲間達がラッピングされていたり、アナウンスが戸田恵子だったり、駅到着音楽がアンパンマンマーチだったりする。 正直なことろ、アンパンマンにとくに思い入れはなかったのだが、これが。いざ出会ってみると。 たいそう心をつかまれた。 ものすごくかわいい。 そんなわけで、近年の鉄道旅のなかでは、鉄道はもちろん、食べもの的にも、お土産的にも、かなり充実した満足旅だったので、旅の記録を残しておきたいと思うのだが、まずはとりあえずアルバムのリンクを貼り付けて、今回はお茶をにごす。 このアルバムをつくったところで力尽きたという話もある。 ↓ http://gallery.me.com/kerokerori#100002 近日公開。 待て次号。 #
by tetsuyome
| 2010-10-11 19:20
| 鉄への愛
神と思っている存在がいる。
氷室京介。 ミュージシャン、アーティスト、キングオブロック、BOφWYのボーカル……など肩書きは各種あるが、自分にとっては一言、神である。 神であるからして、ごはん食べたり、トイレに行ったりするとは思っていない。 その存在自体があまりに光輝いているので、会うだけで気を失うと信じている。 二度、ライブに行った。 一度目は座席があまりに前すぎて、氷室さまがステージ奥のスクリーンを突き破って登場なされたときに、思わず足腰の力が抜けて椅子に倒れこんだ。神、降臨なう、と本気で思った。 二度目はライブハウスだったが、氷室さまもライブハウス出身であるから大会場でやるときより明らかに楽しそうであられて、笑顔が多かった。そんなに惜しげもなく微笑まれては、こちらはただひたすら尊顔を拝すのみである。回りは総立ちで右手コブシを振り上げていたが、そんなことやってる場合ちがう。むしろ手を合わせたかった。 そんなだからライブに行って生音を楽しむ余裕はなく、ライブに行くことは止めた。 人は言う。 「ヒムロってさあ、もうずっと同じ感じじゃん?」 そんなことはわかっている。それがどうした、と返したい。 ずっと同じことをやり続けることこそが、彼岸の技である。 迷いから脱して煩悩を超越した悟りの境地である。 以前、氷室さまが新しいアルバムを出され、銀座の山野楽器へいそいそと買いに行った。 レジに持っていくと、店員さんが1枚の紙を差し出す。 「こちらのCDは、アーティストさんがCD面の印刷が意に沿わなくて、アーティストさんの要望で返品に応じるということみたいです」 ぼんやりしていたので、店員さんの説明が一度でよく理解できなかった。は?みたいな顔をしていると、店員さんは丁寧に再度、説明してくれた。で、聞き終わって思わず声に出してしまった。 「アーティストさんて、氷室さまのことですか?」 店内には音楽が鳴り響いていて騒々しかったのに、何やら自分の声が響いていた。 瞬間、銀座山野楽器のレジにいた店員さん、たぶん4〜5人ほどいたが、彼らの視線が一斉にそそがれた。なにこのイタイ感じの微妙な歳のオンナは?的な感じに。 こちらも別におかしなことを言った自覚がしばらくなく、ああ「さま」付けは、ちょっとイタかったかと気づいて、こそこそと店を出た。 家に帰ってきて、夫に本日のちょっとした小話という流れで、このことを話すと、ドン引きした上、以後ことあるごとに「ウチの嫁の究極のバカ話」として酒席ネタにする。 嫁としては、いたって本気だったのに不本意な話だ。 先週、氷室さまは3年10か月ぶりに新しいアルバムを出された。 新宿の小さなCD屋さんに行って、今度は氷室さまとか言わずに、無口に購入しようと思っていた。 そこはダミーのCDが陳列されていて、レジで本物と交換する仕組みだった。レジには、おじさんと若い女子がいて、おじさんが本物を棚から探してくれている。ちょっと探しあぐねていたおじさんに向かって、若い女子は言った。 「あ、氷川きよしの隣ですね」 一言、何か言いたい気がしたけど、黙っておいた。 新譜はいつもどおりだった。 大事にじっくり聞いている。 #
by tetsuyome
| 2010-09-15 17:43
| 身辺雑記
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